クラシックギター界で「ラミレス」というと、ホセ・ラミレス3世と表面版がシダー(杉)のギターをイメージされるのではないでしょうか?
(MLBを含めて野球界だと話はガラッと変わりますね・・・。)
「なぜカルカッシの練習曲?」と以前に質問をくださった
先輩ワラ様は、ラミレス4世エストゥーディオモデルのギターを、
また別の先輩K氏(←初登場)は、ラミレス3世の工房で作られたギターをお持ちです。
クラシックギターを長く演奏してこられている方にとって、
「ラミレス」は音色やギター本体に特別な思いがあるそうです。
現に私の師匠も「たまにラミレスが弾きたくなるんだよなぁ」と呟かれることがあります。
そこで、今回はこのラミレス家とそのギターの魅力について、私なりにまとめてみます。
書いているうちにすごく長い記事になってきたので、今回は前編とさせてください。
ホセ・ラミレスとマヌエル・ラミレス
この二人は兄弟です。
兄がホセ・ラミレス(Jose Ramirez)
弟がマヌエル・ラミレス(Manuel Ramirez)
通常、兄のホセ・ラミレスがクラシックギター界でラミレス1世として知られています。
そして、ラミレス2世、3世はホセの息子と孫で、
ギターの製作に関してはマヌエル・ラミレスとは全く別の系譜と考えておく必要があります。
実はマヌエルの影響が大きいクラシックギター
ラミレス工房というと、昭和、平成、令和の世を生きる我々にとっては、
どうしてもラミレス3世以降の工房をイメージされる方が多いのだと思います。
事実、ラミレス3世は生産方法や材質の面で革新的な役割を果たしています。
しかし、ラミレス3世が現れるまでも、それ以降もマヌエル・ラミレスの存在なしにクラシックギターを語ることはできません。
兄のギター工房で基礎を学んだ弟マヌエル
先にギター製作を始めたのは、兄のホセです。
フランシスコ・ゴンザレスの工房でギター製作を学びました。
一方でマヌエルは兄の工房でギター製作を学びますが、
お手本にしていたのはゴンザレスの工法を守る兄ではなく、
アントニオ・デ・トーレスのギターでした。
ちょっと余談 トーレス(Antonio de Torres)
さて、よく「トーレスモデル」という言葉を耳にしたことはありませんか?
トーレスという名前だけで高級なギターのイメージがありませんか?
この「トーレス」は、アントニオ・デ・トーレスをさします。
クラシックギター界のストラディバリウスとまで称されます。
トーレスの功績は、大きさや形が様々だったギターを
現在のような形にし、表面版の裏に貼る力木にもこれまでにない工夫を重ねました。
そして酒場の楽器だったギターを
単体でコンサートができる音色や音量に高め、その後の研究者でも解明できないような技術を施したことが、ギター界のストラディバリウスと称される所以です。
以上 余談でした。
マヌエルの工房で育った製作家
マヌエルは製作方法の違いから、兄のホセとは仲違いのように独立しました。
独立に際して、トーレスのギターではなく、ゴンザレスのギターを作るようにホセから言われたことが原因だとされています。
そんな、トレースのギターを追ったマヌエルの工房からは多くの優秀な製作家が育っています。
サントス・エルナンデス、
ドミンゴ・エステソ、
モデスト・ボレゲーロ
など
後にホセ・ラミレス3世の工房で育った職人が、マヌエルやその弟子たちの工法を学びに工房を渡ったということを考えると、
やはり2世、3世とマヌエルのギターには、かなりの違いがあるのだと思っています。
実際にアルカンヘル・フェルナンデスはラミレス3世の工房から、マヌエル・ラミレスの流れを汲むマルセロ・バルベロの工房に移り、バルベロの息子イーホと長くギター製作をしてきました。
マヌエル工房の系譜の一例
マヌエル・ラミレス
↓
サントス・エルナンデス
↓
マルセロ・バルベロ1世
↓
アルカンヘル・フェルナンデス
↓
マルセロ・バルベロ・イーホ
(1世の息子)
弾かせてもらったことのある楽器の感想
マヌエル・ラミレスの系譜にあたるギターを弾かせてもらったことがあります。
楽器店での試奏ではなく、所有者に「太郎さんなら、弾いていいよ〜」とお声をかけていただきました。
マヌエル・カセレス
身近な先輩M氏の愛器
マヌエルと名前がついていますが、親戚ではありません。この方(カセレス)はラミレス3世の工房にもいたので、ホセ・ラミレス、マヌエル・ラミレスのいいとこ取りをしているかもしれませんが、
音はマヌエル・ラミレスの系譜に近い感じがします。
深めのタッチでしっかりと弦を弾かないと鳴ってくれない。
(基礎力がもとめられる)
少し硬い感じが残るが、それでいて艶もあり伸びもある音がする。
右手が疲れる(笑)
ペドロ・バルブエナ
キャプテンの愛器の一つ。
バルブエナご本人は数年前にお亡くなりになられました。残念です。
この方もラミレス3世の工房にいた後、独立しアルカンヘル・フェルナンデスの工房を手伝いながら手ほどきを受けています。
こちらもカセレス同様に深めのタッチが求められます。
しかし、カセレスほど硬い音ではなく、むしろ太くて甘い音がするように感じます。
やっぱり右手が疲れます。
だけどどちらも、音をだしているだけで気持ちよくさせてくれます。
ギターのボディーから身体に伝わってくる振動や部屋やホールに響く音は
記憶に残っています。
ラミレスの話に戻って
さて、どのラミレス?というタイトルをつけながら、話がマヌエル・ラミレスの系譜に偏っていきました。
ひとえにラミレスといっても、単にラミレス3世〜のギターではなく
マヌエル・ラミレスやその弟子となった人たちのギターが多くあるということでした。
そういう意味ではホセ・ラミレス2世は少し影に隠れてしまっているかもしれませんね。
後編では主にホセ・ラミレス3世の功績についてみていきたいと思います。